マンションの管理規約の中には、必ず「L-40以上の性能がある、床材を使用すること」というような、文言があります。
「L-40」というのは、「LL-40」の略で、建築学会でいうところの『軽量・床衝撃音』の性能のことを表しています。
『軽量・床衝撃音』の試験方法は、1920年代に発明され、1948年に「タッピング・マシン」として、国際標準とされました。そのタッピング・マシンは、重さ500グラム、直径3㎝の円筒形の鋼材を、4㎝の高さから落とし、下階で40デシベルに聴える性能を、「LL-40」としています。写真のような、器具です。
世界ではこの器具による試験を「床衝撃音試験」としていますが、日本ではこれを「軽量・床衝撃音試験」としています。日本にはもう一つ、「重量・床衝撃音試験」が存在しています。軽量と重量の基準が別々にあるのは、日本だけです。
日本の住宅は、木造と土足でない文化で、床の剛性を高くする必要がなかったため、と考えられます。
実際に日本では、建築基準法は床の厚さは12㎝以上、という基準しか無く、現実に当初建てられたマンションの床厚は12㎝が、ほとんどでした。
ヨーロッパでは、組積造、土足の文化からか、200・300年前では、床厚1m以上もある建物も存在します。現在の鉄筋コンクリートー造の建物でも、25㎝以上がほとんどです。
「タッピング・マシン」と呼ぶのも、ハイヒールでタップする、というところから、名付けられています。
もう一つ、日本の薄い床スラブとヨーロッパの厚い床スラブでは、決定的な違いがあります。
それは、ヨーロッパの床厚が1mもある床では、すべての衝撃が『表層振動』ですが、日本の薄い床スラブでは、軽い衝撃は『表層振動』ですが、重い衝撃は『構造たわみ』になる、という点です。
ボクは「音」の仕事を始めて、20年くらいはなりますが、今でも最も多いご相談は、マンションの上・下階の音の問題です。特に足音、建具などの『固体伝搬音』が原因です。
その原因は、上記の管理規約、「L-40」という規約にある、とボクは考えています。
上記のように、日本のマンションの標準とすべきなのは、「軽量」ではなく、「重量」でなければ、マンションの管理規約の意味がありません。何故そうなったのか?
恐らく標準のマンション管理規約を作成する際、その違いを考慮せず、「軽量」が標準となってしまったのでは?、とボクは考えています。
ボクは一時、マンション学会に入っていて、その疑問をたずねてみましたが、ご存じの方は、みえませんでした。
今現在、日本には「重量・床衝撃音」用の防音材は、見あたりません。
そこで、試行錯誤の上、『緩衝マット』を開発してみました。
その第1号が、下記の『緩衝マット9』です。2007年のことです。
衝撃を吸収する、反発力の強い特殊な加工をした白いフェルトに、振動エネルギーを熱エネルギーに換える能力が極めて強い、特殊な黒いゴムを貼り合わせました。
公的な試験所の試験で、上にフローリング厚9㎜を敷いた場合、LL-45 (軽量)、LH-51 (重量) という結果でした。
これまで、マンション、保育園などで使って、いただいています。苦情は、ありません。
某大手内装材の会社でも、標準品として、扱っていただいています。
厚さは9㎜、910×910㎜で、設計価格は6,600円/枚、です。